スナック研究会

サントリー文化財団研究助成 「日本の夜の公共圏」

スナック研究会・大団円

 過日、サントリー文化財団からの助成を受けた形としては最後となる、スナック研究会の総括会を催してました。出席者は以下の通りですが、亀井源太郎さんと荒井紀一郎さんは、現在、それぞれコロンビア大学(ニューヨーク)・ハーヴァード大学(ボストン)に留学中なのでした(河野有理さんはご家族の、のっぴきならないご用事)。

出席者:谷口功一、井田太郎、伊藤正次、苅部直、宍戸常寿、高山大毅、横濱竜也、竹園公一朗

 当日は、以下のように、出席者全員からひと言ずつ、刊行された『日本の夜の公共圏 スナック研究序説』の感想を述べてもらいました。 

日本の夜の公共圏:スナック研究序説

日本の夜の公共圏:スナック研究序説

 

 

〔谷口〕
〇 まず表紙写真について。都築響一さんからご提供いただいたもの。表紙では意味づけが過剰になってしまうためにやむなくカットしたが、左半分に「大和たける」さんというインディーズ演歌歌手の方が写っていた。若くして病気で人工透析を受けるようになり、パートナーとともに音響器具をトラックに載せ、東北中を営業している。スナック「おかえり」は青森県某所にあるので、近々訪問してみたい。なお、大和さんについては以下の本の中で詳しく描かれている。 

演歌よ今夜も有難うー知られざるインディーズ演歌の世界

演歌よ今夜も有難うー知られざるインディーズ演歌の世界

 

 本の内容について。21世紀の奇書。とくに第2章~第4章、なかでも第2章(伊藤正次執筆分)が突出して変態的。
  反響。荒井論文191頁の「表1」で、1000人当たりのスナック軒数全国11位として出てくる北海道岩内町。本書を読んだ友人の編集者のおじいさんが通ったスナックのある街だった。おじいさんが元気にスナックに通っていた頃のことを思い出して涙したという話を聞き感じ入った。人の心に触れる部分のある本なのかもしれない。

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〔横濱〕
〇「門前の小僧」として、あらためてすごい研究会とすごい本に参加させていただいたと思っている。他所では決して聴くことのできないすばらしく楽しい報告を、ただ聴くだけの立場で参加させていただいたことに、心から感謝したい。

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〔高山〕
〇 寄稿論文について、最初は「玉袋筋太郎から『源氏物語玉の小櫛』まで」というタイトルで書くことを考えていた。タイトル案はネタであるが、内容は大真面目なものである。
〇 他の章について、第2章~第4章まで、法令関係の話であるにもかかわらず、吹き出してしまうところが満載で、電車内で読んでいて困った。

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〔井田〕
〇 谷口さんとは吉野朔実さんを介しての出会いであった。今回、スナック研究会という形でご一緒することになったのは感慨深い。
〇 法律とは縁遠い分野を研究している者であるが、スナック研究は悪所研究やサロン研究という点で自らの関心と重なると思っていた。
伊藤論文や亀井論文の行間から醸し出されてくるもの、そして宍戸論文の共産党話には大爆笑させてもらった。
〇 法律の方々と研究会をご一緒したからこそ、これまで知らなかった「カフェー丸玉事件」を(織田作之助夫婦善哉』といっしょに)寄稿論文で取りあげることができた。

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〔苅部〕
〇 寄稿論文にて触れた、板橋区の富士見町都営住宅は、実は家族の入院していた病院の近くだった。見舞いで1年ぐらい通っていたが、その頃は、そこのスナックを取りあげることになるとは思いもしなかった。

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〔伊藤〕
皆さんから私の第2章について、いろいろ言っていただいているが、私としては(寄稿論文では十分でなく)まだもう少しやりたかったところ。それは食品衛生監視指導計画の部分。その点で実証研究として道半ばである。
〇 もう一点、スナックという切り口を与えられたからこそ、第2章のような内容が書けたところがある。(歴史を専門とする他の寄稿者に比べて)普通に研究をしているかぎりでは、比較的広がりが乏しいものになるなかで、スナック研究会のおかげで芸の幅が広がった。

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〔宍戸〕
〇 酒も飲めず、欠席も少なくなかったなかで、最後まで参加させていただいたことがありがたい。
伊藤論文のすごい(変態的な)ところは、これだけの短い文章でこれほど多くの情報が整理されて示されていること。
〇 スナック研究会の面白さは、スナックという素材自体の面白さと、集まっている人々の面白さ。
〇 スナック研究から進んで、「カフェー丸玉女給事件」の学際研究や、荒井論文などを出発点にしたビッグデータの活用問題、スナックとSNS、スナックとAIといった情報法分野との連携なども、考えてみたいと思っている。

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〔竹園〕
〇 編集者の役割は、マラソンにたとえれば、スタート地点の競技場で声援を送り、30キロ以降ゴールまで伴走すること。
〇 今回の本の寄稿者は、筋肉ムキムキの、力のある走者で、その意味では緊張感のある、きびしい仕事だったし、仕事を通して成長できた。

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 伊藤正次さんによる第2章が「変態的である」ということで衆目が一致したのが大変印象的でした。

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 なお、アメリカの亀井さん・荒井さん、そして河野さんからも以下のようなメッセージを頂きました。

 

〔亀井〕

〇 亀井@ニューヨークです。最終回の記録を拝見しました。出席できず、まことに残念です。「スナック」は、解釈論屋/刑事法屋にとって普段は与えられない切り口で戸惑った面もありますが、素晴らしいメンバーと楽しく議論できたことは幸せな思い出です。研究者になって本当によかったと思いました。御礼申し上げます。

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〔荒井〕

〇 荒井@ボストンです。最終回の記録ありがとうございました。毎回、アプローチのまったく異なるスナックの「料理法」とそこで交わされる議論に個人的には緊張しっぱなしでしたが、とても勉強になりました。みなさんの章を読んで、自分の分析を見直すとやはり時系列のデータがあればなあと思った次第です。ニコ生で谷口先生がおっしゃっていたように、スナックの軒数は減少傾向ですし、時系列データがあれば「立地」にしても「機能」にしても、スナックが時代とともにどう変化したのかに迫ることができて、他章とのつながりももっと出せたかなと思っております。本当にありがとうございました。

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〔河野〕

〇 最終回の様子を紙(PC)上で拝見し、改めて参加できなくて残念です。最近は若者の「飲み会」離れが叫ばれていますが、大人とて「形式的なつまらない飲み会」の苦痛は身に染みて感じているのではないでしょうか。しかしだからこそ、気の合う同士の肩ひじ張らない「実質的な懇親」への願望はむしろ高まるということもあるでしょう。「飲み会」を忌避する若者も(そこにアルコールが介在するかどうかは別問題として)そうした意味での「懇親」を望んでいないわけではないのでしょう。
〇 私の関心は、こうしたおそらく多くの人にとっては身近なはずの問題を「二次会」というキーワードを使って近代日本の経験として考えてみるということでした。それが成功したかどうかは読者の判断に委ねるしかありませんが、思えばこの会が研究会という「一次会」と懇親会という「二次会」が見事に融合した稀有な事例であったということは、「スナック」という場所の可能性を考える上でもかなり意味のあることなのではないかと思いました。皆さま、本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。

 

 当日は毎回の研究会に会場を提供して下さったお店(スナック)のママに研究会一同から御礼の記念品と花束の贈呈も行われたのでした。

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 助成を受けた形でのスナック研究会は、このたびをもって一旦大団円を迎えたわけですが、研究共同体としては今後も持続してゆきたいと思っておりますので、今後ともご愛顧頂ければ誠に幸いです。

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 現場からは以上でした。